健康づくり

ここではWHOが提唱し、本会が推進する新たなる健康づくりの考え方を紹介します。これらの考え方は、フロリデーションや集団フッ化物洗口と深いかかわり合いがあり、理論的支柱として重要な意味を持っています。

新たなる健康づくりの考え方

子供の歯を守ることは、大人の歯を守り、生涯の歯の健康に影響します。生涯を通じて、健康で快適な生活を過ごすためにはどうしたら良いでしょうか?

従来の健康づくりから、「新たなる健康づくり」ヘルスプロモーションへ考え方を切り替える必要があります。

新しい健康観

1964年のWHOの主催する世界保健総会では「健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態」と定義されました。

その40年後のカナダ・オタワでの世界保健総会では「健康とは、その人の潜在能力を最大限生かし、個人の望みを確認・実現しようとする状態」とより高度になりました。

これまでの健康づくり

 
これまでの健康づくりは、地域の人々に「講演会や研修会」「文書」で知識や技術を教えることにより、住民の意識を向上させて、住民が努力する気持ちになり、健康を増進しようとするものでした。

知らぬ間に自然に忍び寄る生活習慣病は、個人的な努力だけでは予防することが難しく限界があります。

 
悪い社会環境という急な勾配の坂道で健康獲得という大きな玉を目標まで押し上げるには辛すぎてたった一人では挫折してしまいます。

ヘルスプロモーションの推進

ヘルスプロモーションとは、人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにする過程(プロセス)のことです。健康に資する諸行為や生活状態に対する教育的支援と環境的支援の組み合わせです。

 
ヘルスプロモーションの2つの柱 
① まず、個人を取り巻く環境を健康に役立つように改善し、健康を獲得しやすいようにすることです。 
② また、個人が健康を増進する能力を備えることにより、自らが健康を獲得する力を身につけることです。

健康作りがしやすい環境を作ることは行政や社会の責任であり、このことが健康獲得の坂道の勾配を下げることになります。

また、個人への各種の啓発活動によって、知識の伝達や動機付けが成功し、多くの住民の参加によりみんなの協力で健康を獲得することができます。

健康を手段として生活の質を高めることができるのです。

健康づくりと歯科保健

子供の歯を守ることは、大人の歯を守ることにつながり、生涯の歯の健康に影響します。生涯を通じて、健康で快適な生活を過ごすためにはどうしたら良いでしょうか?ここでは新たなる公衆衛生の潮流をご紹介します。

むし歯や歯周病は、いまこの現在もなお、数多くの人々に苦痛と不快感をもたらしています。これらの病気の原因は徐々に解明されつつあり、また数多くの効果的な予防方法も、確立してきています。また歯科治療は、決して歯科疾病の原因を撲滅し得ないという知見があるにも関わらず、国内で予防に費やされているのは、歯科医療費のごく一部のみとなっています。

歯科治療にはさまざまな限界があるという認識のもとに、代わりとなる健康を守る方法「健康づくり」が試みられています。当会は、健康づくりの考え方を積極的に支持し、普及していきたいと考えています。

健康づくりの発祥

健康づくりという考え方は、どこから生まれたのでしょうか?その謎解きのために、健康づくり発祥の地である19世紀のイギリスに、さかのぼってみましょう。

19世紀のイギリスは、産業革命の影響を受け、大きな街の労働者にはいくつもの重荷が背負わされていました。それは、 貧しさと過酷な労働状況、劣悪な生活環境です。

この恐るべき社会的状況は、必然的にいくつかの社会的課題へと帰結しました。その一つが、コレラ、インフルエンザなど感染性疾病の大流行です。疾病は、市民にあまねく広がり、社会の安定への脅威となりました。

健康づくりの源流

Edwin ChadwickやSouthwood Smithのような優れた改革者たちは、 地方自治体の改革を通して社会的状況を改善することの必要性を強く訴えました。 1875年、 彼らの訴えは一つの法令に結実します。都市の水道供給、 下水処理、 動物処理の管理について定めた公衆衛生法令 (Public Health Act 1875) の採択です。

法令に基づいた環境の整備は、感染性疾病の減少に大きな影響を及ぼしました。これは、臨床医学が感染症の病原体や抗菌薬を発見するよりずっと以前の出来事でした。「健康づくりという考え方」の源流は、ここから始まったといわれています。

しかし、「健康づくりの考え方」は、この後いったん下火となってしまいます。 健康づくりの現場では、いったい、何がおこったのでしょうか?

下火となる健康づくり

19世紀の後半までに、疾患の流行による脅威は減少しました。すると、 健康づくりの考え方は、 環境的な手段から、個人教育に焦点が絞られるようになり始めました。健康づくりはやがて、この教育的な手法へ偏るようになりました。

教育的な健康づくりは、 次第に心臓病の予防、がんの予防、 高血圧の予防、糖尿病の予防、と健康を脅かす多くの疾患の一つ一つの予防を重視する風潮へと発展していきます。また、 情報キャンペーンや、より病気になりやすい人を特定し、予防する手法なども、 広まっていきました。

健康づくりの夜明け

しかし、 社会環境から健康づくりを支援しましょうという考え方は、下火となることはあっても、途絶えることはありませんでした。1974年には、 当時すでに世界的となっていた教育的な健康づくりと、 社会環境の改善を基盤とした健康づくりとを統合するきっかけとなる提言が、 カナダから発信されました。  それはカナダの健康大臣による“死亡と疾患の大きな原因は、 生物医学的な特性にあるのでは無く、環境的な要因、 個人の行動、そして生活様式にある”という提言です (Lalonde 1974)。この提言は、ややもすれば個人へと偏りがちだった健康づくりの視点を、個人と環境の両方へ向けさせる上で、大きな役割を果たしました。この流れを汲み1986年にWHOは、カナダのオタワにて国際会議を開きました。

このページの主題である、 「健康づくり」への提言です。

健康づくり国際会議の開催

世界保健機構(WHO = World Health Organization)は1986年の11月にカナダのオンタリオ州オタワ市にて、新たなる公衆衛生の潮流を明らかとするために、健康づくり国際会議を開催し、以下のような展望を掲げました。

1. 支援環境の整備 
 環境が健康にあたえる影響を認識し、健康づくりにつながる変化の機会を特定しましょう。 
2. 健康政策の制定 
 保健部門のみではなく、すべての部門の政策が健康に影響をあたえるということに、注意を促しましょう。 
3. 地域活動の強化 
 個人と地域が中心となって、健康獲得のための優先順位の設定、決断、戦略の計画と実行をしましょう。 
4. 個人技能の開発 
 情報を発信するだけではなく、一人一人が健康づくりをできるように個人や社会、政治の技能開発を支援し、その情報の理解を促しましょう。 
5 医療事業の再設定 
 治療や臨床を存続させる責任から離れ、健康づくりに焦点を絞りましょう。

これらは今ではオタワ憲章として知られています。オタワ憲章のひとつひとつを実現することは、「健康づくり」に必要な幅広いさまざまな手法を網羅する、多様で有効な活動へとつながっています。

すなわち、病気になった人をいたずらに非難する「個人の努力に基づいた予防活動」に対する批判が展開され始め、予防は個人のみで実現できるものではなく、社会環境の整備、資源の開発が必要であるとするものです。 

北海道子どもの歯を守る会は、 
WHOの提唱する「健康づくり」の考え方を 
積極的に支持し、普及していきたいと考えています。