第34回定時総会記念講演会のご報告

平成29年4月22日(土)、北海道歯科医師会館にて、厚生労働省医政局歯科保健課長の田口 円裕先生をお招きし、第34回定時総会記念講演会が開催されましたので、報告いたします。当日は、本会会員を含む36名の参加があり、盛会のうちに終了いたしました。田口先生は、1989年の長崎大学卒業後、同大予防歯科学講座を経て、1994年に厚生省(現厚生労働省)に入省されました。医政局歯科保健課課長補佐、保険局医療課課長補佐、社会保険診療報酬支払基金歯科専門役そして保険局歯科医療管理官を歴任され、2016年4月より医政局歯科保健課長としてご活躍されています。

歯科疾患構造の変化や歯科医療の高度化に伴い歯科保健医療ニーズが多様化する中、一層充実した歯科保健医療の提供体制を構築していく上で、これからの時代に求められる歯科医療、歯科医師像について、様々なデータを交えてご教示くださいました。 

現在、厚労省の歯科保健課が担っている仕事は大きく4つに分けられます。まず始めに様々な検討会等の設置・運営を通じて、国が目指す歯科保健医療の予想図を描いていくこと。次に平成23年に施行された、いわゆる歯科口腔保健法に基づくライフステージごとの施策の推進、3つ目には歯科医師の資質向上への取組、そして最後が歯科衛生士と歯科技工士に係る施策等の推進です。 

わが国では現在、人口構造の変容が著しい状況にあります。人口そのものが減少に転じていることに加え、年齢構成の変化が大きく、高齢者の割合が増加しています。しかし、その増加割合には地域差があり、特に都市部において増加が顕著で偏りが見られます。このような背景のもと、地域包括ケアシステムの構築が提唱され、その中で歯科が果たすべき役割も重要になってきているのです。 

歯科を取り巻く環境については、具体的にはう蝕及び補綴の減少、そして歯周疾患への対応が増加する状況にあります。このような中、訪問歯科や医科歯科連携が重要なキーワードとなっています。 

平成27年の診療行為別の調査によれば、各年齢層において歯冠修復と欠損補綴が減少していることが明らかとなりましたが、特に欠損補綴については、高齢者においても減少傾向にあり、かわりに在宅医療が増加していることが示されました。具体的には、総義歯の減少が顕著となっています。 

近年、訪問歯科の必要性が叫ばれていますが、全国を対象とした平成26年の調査では、訪問歯科診療を行っている歯科医療機関は全体の約2割にとどまっており、まだまだ医療資源としては不足している現状にあります。 

また、訪問歯科を実施する歯科医療機関の形態については、少数の在宅患者に個々に対応する機関と、施設を対象として多数の患者に対し医療を提供する機関とに分けられ、二極化する傾向にあるようです。 

医療費は全体として増加傾向にありますが、歯科の医療費については、ほぼ横ばいです。診療所内で完結していたこれまでの歯科医療はまさに転換期を迎えているといえるでしょう。う蝕への対応から歯周疾患への対応へとシフト、さらに糖尿病と歯周病との関係のように、口腔と全身の関係を意識した対応が求められます。 

国では今年度、歯科口腔保健の推進に関する基本的事項の中間見直しを行うため、従来6年周期で実施してきた歯科疾患実態調査を平成28年に実施し、現在集計分析を進めています。今年6月には速報値として公表し、10~11月には最終的な結果を公表する予定です。歯科疾患実態調査については、今後は5年ごとに実施することとしています。 

また、健康格差の縮小を見据えた歯科口腔保健施策を推進するため、歯科保健課内に「歯科口腔保健推進室」を設置し、省庁の垣根をこえて各施策へ横断的に関与できるような体制づくりを行っています。 

今後の歯科保健医療の方向としては、地域における歯科医療機関の位置付けが確実に変わっていくことでしょう。歯科保健医療は、疾患対応型から口腔機能にも着目した予防・管理型へ、そして当然のように多職種連携のもと、多様なニーズに応えられなくてはなりません。国に対しては、保険(臨床)と保健(公衆衛生)とが統合された政策の実現が求められていくと考えています。 

今回の記念講演会は、最新のデータ等を基に、国が目指す歯科保健医療の方向性を知ることができる大変貴重な機会となりました。田口先生におかれましては、ご多忙のところご講演いただきましたことに、深く感謝を申し上げます。 

(文責:広報部 新里)