第33回定時総会記念講演会のご報告

平成28年4月16日、北海道歯科医師会館にて、北海道大学歯学研究科予防歯科学教室特任准教授の本多丘人先生をお招きして、第33回定時総会記念講演会が開催されましたのでご報告いたします。 

本多先生には「これまでの予防歯科、これからの予防歯科」と題しましてご講演いただきました。当日は、本会会員を含む40名にご参加いただき、盛会のうちに終了いたしました。 
本多先生は、1976年の北海道大学卒業後、40年間にわたり同大の予防歯科学教室に籍を置かれ、予防歯科臨床、教育・研究に携わってこられました。先生が医局に入られた頃は、3歳児のう蝕有病者率が80%にも及ぶような時代で、子供の歯内療法もかなり多かったとのことです。また、歯科医師の絶対数が不足しており、各地域より歯科健診の依頼が大学に寄せられ、多くの市町村における歯科保健対策に参画し、中でも日高管内のえりも町へは、現在に至るまで関わっていらっしゃるとのことでした。 

また、アメリカイリノイ州への2年間の留学や、バングラデシュにおけるJICAの草の根支援事業、30年間ほど従事されておられる、羽幌町焼尻島への無歯科医地区離島歯科診療班の仕事のお話なども交え、これまでのご自身の歩みを紹介してくださいました。本多先生におかれましては、1時間の講演時間があっという間に感じられるほど、予防歯科に関わる多くの話題について、わかりやすく丁寧にご講演いただき、誠にありがとうございました。

予防歯科は、「すべての人」を対象とする診療科であり、子どもも大人も、そして障がいのある人も治療を終えた人も、皆を対象とするのが特徴です。予防歯科においては、「どうして(その患者は)むし歯(歯周病)になったのか」という原因に対するアプローチが、非常に大切です。そして、歯科疾患が発生する上では、生活習慣や社会的な環境が大きく影響することを忘れてはなりません。 

アメリカやヨーロッパでは、う蝕罹患のピークは戦前であり、その後はフロリデーション等により、う蝕は大きく減少しています。我が国では、う蝕のピークは戦後しばらくしてからであり、当時は歯学部が少なかったため、国は歯科医師を増やそうと、全国に歯学部を次々と設置していきました。現在では、日本においても小児のう蝕は減少傾向にあり、う蝕治療そのもののニーズも減少してきています。 

そこで国は、歯科医師数の抑制へと方向転換を図っており、国家試験の難易度を上昇させるなどして、毎年新たに誕生する歯科医師の数を制限しています。ただ、日本における歯科医師数は、先進国の中で、人口比では決して多い方ではありません。 

我が国では、江戸時代より歯磨き粉が広く販売されるようになり、「虫歯予防デー」についても昭和3年からスタートしており、う蝕予防に関する歴史は浅くはありません。 

う蝕予防については、プラークの付着自体がすべてう蝕の発生に結びつくわけではないにも関わらず、現在でも歯磨き信仰が根強くあるところです。一般の人はともかく、専門職である歯科衛生士においても、そのような考えを持っている人がまだいるようです。確かに、歯周病対策としては、ブラッシングが効果的ですが、う蝕は発生要因が複合的であり、ブラッシングを完璧にすれば大丈夫とか、キシリトールだけを摂取していれば良いとか、S、mutansの感染を完全にブロックできれば良い等の極端な考え方は、現実的ではありません。 

子どものう蝕の罹患状況を示す指標である12歳児のDMFTは減少の経過を辿っており、学校保健統計では全国平均が0.9本と、ついに1本を切りました。現代は、う蝕が1本もない児童がけっして珍しくはない世の中になったのです。おそらく、8020についても、近い将来には多くの人が達成するようになるでしょう。

これからの予防歯科は、我々歯科保健医療に関わってきた者が、これまでの「頑張り」を大いにアピールするとともに、定期受診を柱とした患者の確保がカギになると考えます。日本では、今なお「治療が終了した」=「治った」と解釈し、再び症状が出るまで受診しない人が多い現状にあります。年に数回の定期受診により、健康度が下がりにくいことも明らかになっています。アメリカやカナダでは、歯科の治療費自体が日本よりかなり高いという背景もありますが、自覚症状がなくとも歯科を受診する人が70%以上とも言われています。 
我々歯科医療従事者は、定期受診のメリットを広く患者に伝えるとともに、患者に対しては、良いところを褒め、評価し、心地良さを提供することが肝心です。かかりつけ歯科医は、時代の要請であるとともに、歯科保健と歯科医療は不可分であると考えられます。まさに、治療は予防であり、予防は治療であるともいえるでしょう。 

(広報部 新里) 

座長の丹下先生

座長の丹下先生 

ご講演中の本多先生

ご講演中の本多先生