会員研修会のご報告

平成25年10月19日、北海道歯科医師会館5階会議室にて、北海道大学大学院歯学研究科口腔機能学講座小児・障害者歯科学講座 八若保孝教授先生をお招きして、会員研修会が開催されましたのでご報告いたします。

八若先生には「吸指癖 − もっとも大変なアプローチ」と題しまして、吸指癖についての従来の知見、そして最新の知見につきまして、ご講演いただきました。当日は、出席者は本会会員を含む27名にご参加いただき、講演後には、活発な質疑応答も行われ、盛会のうちに終了いたしました。

以下に内容をご報告させていただきます。

■ 指しゃぶりの影響 

吸指癖、指しゃぶりは、口腔周囲組織のさまざまな形態と機能に、次のような影響のサイクルをもたらします。 

 指しゃぶりの持続から、歯列への影響→不正咬合への移行→口輪筋の緊張異常→口腔機能の異常→発音への影響→歯列への影響→… 

歯列への影響には、V字歯列、上顎前歯唇側傾斜、下顎前歯舌側傾斜があります。不正咬合への移行には、上顎前突、開咬があります。口輪筋の緊張異常には、上唇翻転、口唇閉鎖不全があります。口腔機能の異常には、舌突出癖、異常嚥下癖、口呼吸があります。発音への影響には、サ行、タ行、ナ行の発音、顎発育への影響があります。これらの影響はさらに心理的な影響を招きます。また、心理的な影響がこれらの機能に影響及ぼすこともあるかと思われます。 

開咬には、垂直的開咬と水平的開咬があります。垂直的開咬は片側性交叉咬合、水平的開咬は上顎前突となってあらわれます。 

■ 指しゃぶりの考え方 

指しゃぶりの考え方は、立場により見解が異なります。小児歯科医は、不正咬合の進行を防止し、口腔機能を健全に発達させる観点から、早くやめさせたい、小児科医は、指しゃぶりは生理的な人間の行為であるので、無理にはやめさせない、臨床心理士は4歳以上まで指しゃぶりが持続する場合には、背景に生活環境が影響しているので、問題行動のひとつとして対応する、という見解を示しています。 

平成18年には、小児歯科学会と小児学会からなる「小児科と小児歯科の保健検討委員会」が指しゃぶりについての考え方について見解(http://www.jspd.or.jp/contents/main/proposal/index03_05.html)を示しています。そこでは幼児期は、指しゃぶりの消失を見守る、学童期ではより積極的なアプローチ、明らかな要因への対応が必要というスタンスになっています。 

■ 小児歯科での対応 

小児歯科では、指しゃぶりとその影響に対して、指・口・舌へアプローチすることになります。 

指へのアプローチは、しゃぶることの阻止を目的としており、物理的アプローチと味による対応があります。物理的アプローチは、指しゃぶりに使う指にテープ・サビオを巻く、両手を丸手袋・ハイソックスで覆う、ネイルアートを施す、ドクターサムなどの商品をつかう、などがあります。これらのアプローチは、指をしゃぶれなくする効果や(しゃぶっても口腔内を陰圧にできないため)指しゃぶりの満足感・充足感を妨げることによる指しゃぶり消失への期待があります。味による対応には、苦味つきのマニキュア塗布、わさび・からしなど刺激性の薬味塗布があります。これらは、指しゃぶりに不快感を付与することによる指しゃぶり消失への期待があります。 

口へのアプローチは、指の挿入の阻止を目的としており、マスクや口腔内への装置(習癖防止装置)があります。親指を口蓋に挿入する指しゃぶりでは、上顎に装置を装着します。指を曲げて口腔底に挿入する指しゃぶりでは、下顎に装置を装着します。 

舌へのアプローチは、舌習癖の除去を目的をしており、舌癖除去装置があります。舌癖除去装置はタングガード、タングクリブ、パラタルクリブがあります。これらは筋機能療法(MyoFunctional Therapy)と併用が効果的です。MFTの教本には、わかば出版の舌のトレーニングなどがあります。 

吸指癖はなかなか除去できません。忍耐強く子どもと向き合いましょう。焦らないこと見守ることが重要です。実践できたことはほめてあげてください。(南出保)

ご講演中の八若先生

ご講演中の八若先生 
ご講演中のスライド

ご講演中のスライド